
皆様、こんにちは。
三ノ輪相談所を監修しております、千賀喜心です。
私たちの住む日本は「八百万(やおよろず)の神々」の国。山や川、街中の小さな祠まで、あらゆる場所に神様が鎮座しています。
神社にお願い事をする時、皆様はご祭神のお名前やルーツを意識して手を合わせていますか?
実は神様たちにも、人間と同じように「得意なこと」があります。
恋愛成就に力を貸してくださる神様、仕事の成功を導く神様など、そのご神徳(ご利益)は実に個性的で魅力的です。
神様の背景にある壮大なドラマを知り、「いま自分が誰に祈りを捧げているのか」を意識するだけで、感謝の念が深まり祈りの力は何倍にも膨らみます。
「神様を知ること」は、運気を切り開くための第一歩。
そこで当コラムでは、皆様と神様をお繋ぎするため、日本の神々を定期的に解説しております。
第7回のテーマは、右手に釣り竿、左手に鯛でおなじみ。七福神の「えびす様」こと『事代主神(ことしろぬしのかみ)』をご紹介いたします。
目次
事代主神(ことしろぬしのかみ)とは?
事代主神は、第5回のコラムでご紹介した縁結びの神様・大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)の息子(御子神)です。
「事代(ことしろ)」という言葉には、「神様の言葉(事)を代わって伝える」という意味が含まれています。
つまり、事代主神はもともと「託宣(お告げ)の神様」であり、非常に賢明で、重要な局面において神意を伝える役割を担っていました。
古事記などの文献や神社によって、以下のような別名でも呼ばれています。
- 八重事代主神(やえことしろぬしのかみ)
- 事代主命(ことしろぬしのみこと)
また、事代主神の母は、大国主大神の妻の一柱である「神屋楯比売命(かむやたてひめのみこと)」という女神様です。
その名に「楯(たて)」という文字が入っている通り、災いから家や国を固く守り抜く力強い守護の女神とされています。
なぜ「えびす様」なの?神仏習合と釣り竿・鯛の秘密
事代主神といえば、ニコニコとした福々しい笑顔で、右手に「釣り竿」、左脇に立派な「鯛」を抱えた「えびす様」のお姿を思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし、なぜ日本の神様である事代主神が、えびす様として扱われるようになったのでしょうか。
これには、日本特有の「神仏習合(神道と仏教などの信仰が入り混じること)」や民間信仰の歴史が関わっています。
古くから日本には、海の向こうから豊漁をもたらす「えびす(夷・戎)」という寄り神信仰がありました。
その後、時代が下るにつれて、古事記に描かれた「事代主神が海で魚釣りをしていた」という神話のエピソード(後述します)と、豊漁の神である「えびす様」のイメージがピッタリと結びついたのです。
【釣り竿と鯛を持つ理由】
事代主神が海で釣りをしていたことに由来します。
また、「鯛(たい)」は「めでたい」に通じる縁起物であり、「釣り竿」は網で一網打尽にするのではなく、「釣り糸を垂らして清く正しく、焦らずに福を釣り上げる」という誠実な商売のあり方(商売繁盛の精神)を表していると言われています。

事代主神(えびす様)の豊かなご利益
えびす様として親しまれる事代主神は、豊かさと幸福をもたらす非常に心強いご利益を持っています。
- 商売繁盛: 「えべっさん」として親しまれ、誠実な商売に大きな利益をもたらします。
- 大漁追福・航海安全: 海の神、漁業の神として、豊かな海の恵みと安全を守ります。
- 五穀豊穣: 父である大国主大神と共に、豊かな実りをもたらします。
- 開運招福・厄除け: 福の神として、人々の生活に笑顔と幸運を呼び込みます。

古事記で大活躍!国を揺るがす「国譲り」での大決断
事代主神の賢明さが最も際立つのが、日本神話の重要なハイライトである「国譲り(くにゆずり)」のシーンです。
父である大国主大神が豊かに作り上げた国(日本)に対し、天照大御神(アマテラスオオミカミ)から「その国を譲りなさい」と使者(建御雷神・タケミカヅチ)が派遣されてきます。
武力を持った使者の突然の要求に対し、大国主大神は「私の一存では決められません。息子の事代主神に聞いてください」と判断を委ねました。
その時、事代主神は出雲の美保岬(みほのさき)で、のんびりと鳥を撃ったり、魚釣りをしたりして遊んでいました。
使者から「国を譲るか」と問われた事代主神は、状況を瞬時に悟り、「恐れ多いことです。この国は天の神の御子にお譲りいたしましょう」と即答します。
そして、ただ承諾するだけでなく、自らの船を踏み傾けて拍手を打ち(柏手)、船を青々とした柴垣(神聖な垣根)に変えて、その中に隠れてしまいました。
この「迷いなき決断」と「潔い身の引き方」によって、無用な争いを避け、平和的に国譲りが進むことになったのです。
事代主神は、非常に聡明で決断力のある神様として描かれています。
謎多き神話?「事代主神は二人いた」という説
実は、神話や歴史を深く研究する人々の間で、「事代主神は、もともと二人(二柱)の別の神様だったのではないか?」という興味深い説が囁かれています。
- 出雲の事代主神: 国譲りの神話に登場し、美保岬で釣りをしていた大国主大神の息子。
- 大和(奈良)の事代主神: 天皇家の血筋に深く関わる神様。初代・神武天皇の皇后となる女性の父親として登場し、現在の奈良県(葛城地方)を拠点とした強大な神様。
出雲(島根)と大和(奈良)という離れた土地で、それぞれ極めて重要な役割を果たしているため、「本来は別の地方で信仰されていたお告げの神様(事代主)が、古事記が編纂される過程で同一視され、一柱の神様としてまとめられたのではないか」と考えられているのです。
神様の成り立ちには、こうした歴史のロマンが隠されているのも面白いところですね。

事代主神が祀られている全国の主な神社
全国の「えびす神社(戎・恵比須など)」の多くで、事代主神がお祀りされています。(※蛭子命=ひるこのみことをお祀りするえびす神社もあります)。
ここでは代表的な10社をご紹介します。
- 美保神社(島根県): 全国の事代主神系えびす神社の総本宮。国譲りの舞台となった場所にあります。
- 今宮戎神社(大阪府): 「十日戎(とおかえびす)」で全国的に有名。「商売繁盛で笹もってこい」の掛け声で知られます。
- 長田神社(兵庫県): 神功皇后が創建したと伝わる名社で、事代主神を主祭神として祀ります。
- 十日恵比須神社(福岡県): 事代主大神と父である大国主大神を一緒にお祀りしており、正月の「十日えびす大祭」は九州最大級の賑わいを見せます。
- 京都ゑびす神社(京都府): 日本三大ゑびすの一つ。商売繁盛を願う多くの参拝者で賑わいます。
- 三嶋大社(静岡県): 伊豆国一宮。事代主神と大山祇命(おおやまつみのみこと)の二柱を祀る由緒ある大社です。
- 鴨都波神社(奈良県): 葛城地方における事代主神の信仰のルーツとされる、歴史の深い神社です。
- 堀川戎神社(大阪府): 大阪のキタを代表するえびす神社。「堀川のえべっさん」として親しまれています。
- 三輪坐惠比須神社(奈良県): 日本で最初の市場(海石榴市)が開かれた地に鎮座し、最古のえびす神社とも言われます。
- 大前神社(栃木県): 日本一の大きさを誇る「えびす様」の巨大な像があり、金運招福のパワースポットとして有名です。

おわりに
いかがでしたでしょうか。
ふくよかな笑顔で富をもたらす「えびす様」としての親しみやすいお姿の裏には、国の命運を左右するほどの重大な決断を、平和的かつ潔く下した「聡明で決断力のある神様(事代主神)」という、もう一つの素晴らしい顔がありました。
迷いが生じた時や、仕事や商売で正しい選択をしたい時、事代主神はきっとあなたの心に寄り添い、福を釣り上げるための「賢明な知恵」を授けてくださるはずです。
次に神社でえびす様にお参りする際は、その満面の笑みの奥にある、神話の雄大な物語と深い知性を感じながら手を合わせてみてくださいね。
三ノ輪相談所では、皆様の良きご縁と開運、そして豊かな繁栄を心よりお祈りしております。
次回も、魅力的な日本の神様をご紹介いたしますので、どうぞお楽しみに。



















































